今回のZ900RSカスタムのプロジェクトに参画したディレクターの中でひと際異彩を放つのがモトコルセだろう。ビモータやヴァイルスなど高級輸入モデルのインポーターとして、またドゥカティやビモータ、MVアグスタをベースにハイクオリティなパーツを贅沢にあしらった独自のプレミアムモデルを製作するビルダーとしても世界的に有名なモトコルセが何故今回、Zに興味を抱いたのだろうか。
「僕のバイク人生のはじまりはカワサキです。青いレインボーカラーの輸出仕様のH2 (750SS)に乗って、官能的な加速に酔いしれていました。ところがある日、友人のZ2に乗る事になりました。鈴鹿サーキットでレースを観戦した後、西名阪(自動車道)をZ2に乗って帰ったのですが、4ストローク直4エンジンの緻密さや集合管の音にすっかりやられちゃいました…。その道中、たまたま見知らぬZ乗りたちとも走ることになったのですが、その走っている姿も美しかった。いまの仕事を始めてからは、自分なりにZを手掛けたらどうなるか、ずっとやってみたい気持ちはあったんです。それで、今回のオファーを頂いた。僕にとって今回のプロジェクトは、過去から引きずっている夢の具現化です。でも、ただ高性能パーツを取り付けただけではつまらない。モトコルセらしさを出すにはどうすればいいか、そこに一番悩みました」と語るのは代表の近藤伸さん。Z900RSをカスタムする上で、Zとモトコルセスタイルの融合に時間をかけたという。
Z1は当時、世界一を目指してカワサキが総力を挙げて作った最先端のスーパースポーツ。近藤さんはそのスピリッツをモトコルセ流に表現してみたかったのだとか。そのためにCGで数十種類のスタイリングやグラフィック、マフラー形状の組み合わせを検討。カスタムに必要なパーツも妥協せずに多くの専用品を新作し、世界の一流品からもチョイスした。個々のパーツは性能的にも折り紙付きのブランドばかりだが、それらを組み合わせたときの全体的なバランスを大事にしたという。
「明石(川崎重工明石工場)で最初に現車を見せて頂いたとき、タンクからサイドにつながるデザインが新しいと思いました。タンクが大きくて偉そうな感じもいいですよね。これに対してエンジンは小さくキュッとしていてコンパクト。Z1イメージで統一感を出しつつ、灯火類はLED化されるなど現代的にアップデートされているのも気に入りました。「早く乗りたい」という気持ちが湧きました」
機能美を感じさせるカチッとしたディテールや完全なシンメトリーのグラフィック、精密なエキゾーストシステムの作りなどで他とは差別化していく。ときに冷淡に見えるほど一切妥協のない作り込みがモトコルセ流だ。
「やはりZ1のイメージは火の玉です。それをモトコルセらしく表現したかったんです」という近藤さんがイメージするZ900RSのカラーはブラック系だ。モトコルセで扱ってきたイタリア製品は派手なカラーが多かったが、最近の欧州のトレンドはダーク系にシフトしているという。例えばタンクはモトコルセオリジナルのカーボンブラックをマットとグロスに塗り分けたうえ、3Dデータを基にアルミシートから切り出したクロームラインを張り込み、さらにその上をグロス仕上げしている。ちなみに、タンクの微妙な曲面に伸縮しないクロームラインをフィットさせていくのは至難の業。それをなんと熟練の職人がひとつひとつ手作業で行っているというから驚く。デジタルとアナログを使い分けながら、丁寧に時間をかけることでこの美しいラインが出来上がっているのだ。
最終的に外装類はすべてドライカーボンで仕上げる予定で、さらに外観上のワンポイントでもあるエンジンハンガーやフロントフェンダーサポートについても、ノーマルのアルミ製から高強度のドライカーボン製に変更されている。ちなみにドライカーボンは靭性にも優れるため、こうした強度部材としても優れた特性を持っているとか。数多くのプレミアムモデルを手掛けてきた実績に裏打ちされたノウハウが生かされている。
「Z900RSの完成度は高いと思います。ただ自分が乗るにはこうしたい、という気持ちがありました」と近藤さん。たとえばシート。スタンダードのシートは丁寧な造りで、切り返しが入りシームレス加工もしてあり、剥がしてみるとクッションもワンピース成型で細部の仕上げもいい。そこにクッションの形状をほんのわずかアレンジするだけで大きく印象が変わってくる。Z900と共通のチェーンカバー一体のリヤインナーフェンダーは、スタイリッシュで側面の肉抜きも含めてとても凝ったデザインだが、フェンダー部をもう少しタイヤに添って長い形状にしたほうがZ900RSの外観によりマッチすると近藤さんは言う。三角形状のテールエンドも全長を3cm程度短くするだけでボディとの一体感が出てくる。オリジナルのデザインは大きく変えずにバランスを調律するのがモトコルセ流だ。それはマシンが最も美しく見える黄金比を見つけていくような地道な作業でもある。
「オーナーはこのバイクが好きで、このデザインが気に入って買ってらっしゃるわけですし、メーカーの人達が心血を注がれた作品です。それを大きく変えてしまうのは本末転倒と思います。我々の仕事は原石を磨き上げていくことです。その中でコストをかけてもこうしたいと思うマシン、自分が乗りたいZ900RSに仕上げました」と近藤さん。“Z9RSC”と刻印されたロゴには、これまで一流の海外ブランドとオリジナルマシンを製作してきたプライドが滲む。
それだけにこだわりは半端ではない。これを如実に証明しているのが、今回のために開発したオリジナルのフルチタン製エキゾーストシステムだ。オブジェのように芸術的なアールを画くエキゾーストは、ノーマルの集合管のイメージをアップデートさせたデザイン。センター部分からサイレンサーエンドまでパイプ径が広がっていく設計になっている。これを実現するために、チタンのシートから1枚ずつパーツを切り出してそれをリング状に巻いて互いに溶接するという実に手間のかかる作業を行っている。ここでもデジタルとアナログが共存する。性能と軽さ、見た目の美しさを両立する4-2-1集合タイプだが、フロントパイプの管長を稼ぐために新設計した専用の集合部は、外からは見えないがさらにセパレーターで内部を仕切り、その後ろにはきちんと触媒を装着するなど、とことん手間とコストをかけて作られている。また、直4エンジンならではの整然と並ぶフランジまでも、なんとチタン厚板から削り出し、それぞれにレーザー刻印が施されている。さらにエンドキャップに至ってはレーザーでハニカムメッシュ加工した一体構造という、MotoGPマシン並みのパーツが装着されている。いやはや、溜息しか出てこない。
全身ブラックの中で目を惹くのが金色に輝くオーリンズ製前後サスペンションだ。「オーリンズは優れた性能に加え、世界中どこでも必要なパーツが揃うし専門のメンテナンスも受けられる。マーケットに対して責任を持つという企業姿勢に共感しますね」と近藤さん。ただ、これにもひと捻りある。倒立タイプでZ900RSにフィットする定番品は存在しないため、イタリアンブランド用のOEM品をベースに長さを調整、オリジナルのボトムクランプなどを製作したスペシャルバージョンだ。
ブレーキも十八番のイタリア物で統一、ブレンボ製キャリパーにAlth製ベンチレーテッドタイプのディスクを組み合わせる。これは2枚の削り出したステンレス製ディスクをスポット溶接で重ねた逸品で、放熱効果はもちろん軽量化とともに、しっとりとした独特の効き味をもたらす。こうした手法は、これまで手掛けてきたドゥカティやビモータなどのカスタム実績に基づくものだ。ホイールについてもカーボン製の新作で、新しいZ900RSのイメージに合う7本スポーク仕様とした。バイクにとって「軽さは正義」であり、特に回転部分の慣性重量の低減はハンドリングに大きく影響する部分。コーナリングの軽快感だけでなく、加速性能やブレーキ性能にも直接関わってくる。しかもカーボンには弾性があり衝撃に対しても強いなど優れたメリットがある。そして、足まわりの仕上げとして、ピレリ・ディアブロスーパーコルサSC1を採用し、リヤはボリュームのあるタンクデザインに合わせ200サイズをチョイス、サーキット走行にも対応する仕様にグレードアップ。もちろん操縦性とフィット感を考慮してハンドルやステップ、シートなどのライディングポジションも、ノーマルの良さを生かしつつ、よりスポーティな方向で再構成されている。なお、ハンドルポストには専用設計のスマートフォンホルダーが装着されるが、こうしたアクセサリーひとつとっても、モトコルセの妥協なき強いこだわりが伝わってくる。
「まずは十分に走り込んで改善点を洗い出し、ゆくゆくはエンジンチューニングにもトライしていきたいです」と意欲を見せる近藤さん。モトコルセスタイルが世に問う新世代Zが今後どんな進化を見せてくれるのか楽しみだ。
Moto Corse
チタニウム製フルエキゾーストシステム Φ42.7mm 4-2-1:チタニウム製フランジ、ロブスターテールデザインヘッダー + テーパードサイレンサー、ティアドロップハニカムエンドキャップ
X.A.M
ドライブスプロケット 520 -15T
Moto Corse
CNC アルミニウム製リヤスプロケット 520 - 42T
D.I.D
ドライブチェーン 520ZVM-X 114L
Moto Corse
フレームペインティング:パウダーコーティング ( チタニウムゴールド )
Moto Corse
CNC アルミニウム製 ステアリングトリプルクランプ (アルマイト : チタニウムゴールド )
Moto Corse / Öhlins
フロントフォーク:R&T Ø43mm モトコルセ特別仕様
Moto Corse / Öhlins
リヤモノショック:S46 フルアジャスタブル ( プリロードアジャスター、車高調整機能付 ) + モトコルセCNCアルミニウム製リンク
Moto Corse
スイングアームペインティング:パウダーコーティング ( チタニウムゴールド )
Brembo
フロントブレーキマスターシリンダー:ラジアルポンプ CNC レーシング
Brembo
フロントブレーキキャリパー:ラジアルマウント CNC GP4RX
Moto Corse / Alth
フロントブレーキディスク:Ø320mm ステンレス製 ベンチレーテッド・フローティングマウント
Moto Corse / Brembo
リヤブレーキキャリパー:Supersport P34/2 CNCキャリパー + CNC アルミニウム製 キャリパーサポート
Moto Corse / Alth
リヤブレーキディスク:Ø220mm ステンレス製 ベンチレーテッド・フローティングマウント
BST
カーボン製 ホイール:7ストレートスポーク F:MT3.50-17、R:MT6.00-17
Pirelli
DIABLO SUPERCORSA V2 SP SC1 F:120/70ZR17、R:200/55ZR17
Magical Racing
ドライカーボン製ハンドルバー
Kohken
CNCアルミニウム製 メカニカルクラッチレバー / フォールディングタイプ
Moto Corse
スペシャルカーフレザーシート (パンチング + スティッチング / プログレッシブダイヤキルティング)
Moto Corse
CNC アルミニウム製 ライディングステップ + ラジアルブロックスクエアエッジコンセプトフットペグ (アルマイト : チタニウムゴールド)
Moto Corse
CNC アルミニウム製:スマートフォンホルダー、フューエルタンクキャップ、DBTプリロードアジャスターダイヤル
Moto Corse
DBT アクスルスライダー : F/R
Moto Corse
ドライカーボン製 : メーターハウジング、ヘッドライトハウジング、ステアリングネックカバー、ピヴォットプレートカバー、ラジエターサイドシュラウド、スロットルボディーカバー、エンジンサポート x 4、プリロードアジャスターサポート、ヒールサポート、リヤフェンダー、ライセンスプレートサポート、ライセンスプレートベース
Moto Corse
チタニウム製ラジエタープロテクションスクリーン
Moto Corse
DBT チタニウム製アクセサリー:ハンドルバーエンド、フレームキャップ、ラゲッジバッグフック、エアーバルブキャップ
Moto Corse
DBT チタニウム製ボルト:バンジョーボルト、フロントフェンダーサポート、フロントブレーキポンプ、クラッチレバー、ラジエターカバー
Moto Corse
車体オリジナルペイント : カーボンブラック(マット / グロス仕上げ) + グロストランスパレンテッドクロームメタルライン + ロゴ