人気もまばらな里山が広がる兵庫県・豊岡の奥深くにカワサキ・Z系チューナーとして名高いビトーR&Dがある。まさかこんな場所にあるとは思えないほど閑静な森の中に、忽然と現れる大きなファクトリーはまるで映画に出てくる秘密基地のようだ。
「山を切り崩して平地を作ったんですよ。ショベルカーで土を削るのが楽しくて(笑)。今も増築中でゆくゆくは社員食堂や公園のような工場を作りたい。人間として極めて快適な環境を作ることが大事ではないかと。それでこそ世界に通用する製品が作れると思っています」と代表の美藤定さん。1976年、アメリカでの再起をかけてAMAスーパーバイク選手権に臨んでいたヨシムラR&Dに入社した美藤さんはメカニックとして頭角を現し、Z1ベースのプロダクションレーサー開発などに従事。その後スズキやホンダからも声がかかりロードレース世界選手権(WGP)のメカニックとして世界を転戦した後、1983年から生まれ故郷である現在の豊岡へ戻り今の会社をスタートさせた。業界では知らない人はいない大御所だが、そんな素振りはまるで見せない気さくで謙虚な人柄に惹きつけられる。
ビトーR&Dには世界中からオーダーが入る。キャブレターやピストン、マフラー、ホイールなど多種多様だ。その中にはMotoGPを戦うファクトリーチームからの注文もある。ちなみに、ビトーR&Dの代名詞とも言える「JB-POWER MAGTANホイール」は、カワサキやスズキのMotoGPチームにも採用された。世界最高レベルのクオリティがしのぎを削る世界で認められた技術者集団でもあるのだ。
「ウチにくるお客は変人揃いですよ。こだわりの強い人ほど変わらないし、時代に流されないから我々のような小さな会社がやっていける。マイノリティ相手の商売なんですよ(笑)」自分が楽しいと思えるものを作ってきた、と美藤さん。お客にも同じ人種がいて、その希望を叶えるのが職人の仕事と言う。喜んでもらいたい、幸せになってほしい、それが仕事になってお金になればそんな嬉しいことはない。凄いスピードで変化していく現代の中で自分を見失わないため、初心に戻れるようにとの思いから創業以来、自然に囲まれた田舎暮らしを続けている。
自他ともに認めるZマイスターにとって、Z900RSの第一印象はどうだったのだろう。「カワサキらしさが随所に感じられる美しいバイクですね。水冷なのにフィンが刻まれ、タンクも厳つく存在感があるし、足まわりもグレード感があって走りもいい。最近の直4エンジンはやたらスムーズに回り過ぎてしまうのが味気ないが、今回のZ900RSは低中速からジワッとくるトルク感がいい。Z1の伝統を感じます」と美藤さん。
しかし一方で、ノーマルのままでは物足りないというお客さんも必ずいる。「もっと楽しみたい人に向けて何ができるのかを考え、形にするのが我々の仕事だと思う」という美藤さんが手掛けたZ900RSカスタムは、往年のZ1シリーズを知り尽くした匠がまさに自分のために創り上げた一台だ。
「Z900RSの走りは現代的でたしかに軽快で良く曲がる。けれど、自分だったらもう少しリラックスしてゆったり乗れたほうがいいかな。そう思って18インチに、タイヤもあえて細めにしてみました」という美藤さんが目指したのは“意のまま感”。安心して乗れて自分で操っている実感が持てる、奥深い走りの楽しさである。
これを実現するため、ホイールはオリジナルの「JB-POWER MAGTAN」の前後18インチを採用。重量はノーマルの半分程度と、ばね下の軽量化とともに軽快で穏やかなハンドリングを実現した。足まわりも機能的にはノーマルそのままで十分だが、自分が所有したいものかを基準に考え、ブレーキにはアルミ削り出し6ピストンを採用。ディスクも絶妙なタッチとコントロール性に優れる鋳鉄製に変更されている。小径ピストンが一列に並んだスリムなキャリパーと繊細なブレーキディスクにも美へのこだわりが見て取れる。
マフラーは現代のマシンに相応しく1本出しの集合タイプとし、もちろん材質はチタン製でノーマルの半分以下に軽量化。エキゾーストパイプが描く滑らかな曲線と美しい焼け色は手曲げならでは。美藤さん自らが曲げているそうだ。サウンドを聞かせていただいたが、透き通った旋律の中に響き渡る重低音がなんとも心地よい。性能と美しさを兼ね備えた逸品だ。
そして圧巻はリヤホイールのアクスルシャフトに装備されたクイックチェンジ機構。元々は耐久レースで素早いタイヤ交換のために開発されたシステムだが、日々のメンテナンスにおいても圧倒的に作業しやすくなる。世界を舞台に数々の耐久レースを経験してきた美藤さんならではのアイディアだ。
「Z1を超えるというコンセプトを考えた場合、Z1が本来持っていた良いものをスポイルしてしまってはファンも納得がいかないと思う。経験やレベルに関係なく乗って楽しめて、いろいろなコンディションで多目的に使えるバイク、すべてを包括できる懐の深さを持ったマシンに仕上げようと考えました。まさにZ1がそうだったように」
オリジナルの「可変オフセット式フォークブリッジセット」もそうした発想から開発されたものだ。ハンドリングに大きく影響するフォークオフセット量をノーマル値の35mmから40mmに変更することで、手応えのあるダイナミックな乗り味とした。外観にもこだわり、エンジンハンガーやフェンダーステー、さらにはヘッドライトやウインカーのステーなど、細部にも高品質なアルミ削り出しパーツを採用。本格的なリヤキャリアを装備したのも、旅の道具としてバイクを愛用してもらいたいためだ。また、意のまま感を出すために要となる操作系、つまりハンドル、シート、ステップの3点の位置関係も見直し、よりリラックスした姿勢でバイクとの一体感を感じられるライディングポジションとしている。
美藤さんにあらためてカワサキへの想い入れについて聞いてみた。
「昔から『過剰品質』などと言われていますが、カワサキとしてはそれが普通のこと。創業以来、船や飛行機を作ってきたし、社名に重工と付くだけあってモノ作りの姿勢が違う。もし故障すれば船は漂流するし、飛行機は落ちてしまう。それは絶対にあってはならないことで、バイクにもその設計思想が貫かれていると思います。国産メーカーの中で最も小規模なのに熱狂的に支持される理由はそんなところにあるのかも……」
今まで、いろいろなメーカーの車両に携わってきた美藤さんをしても、カワサキの過剰品質にはあきれるほどだという。
もうひとつはデザインの美しさ。「機能を追求していくと美しくなる。逆に言うと、美しくないと機能も大したことない」と美藤さん。その意味でカワサキの歴代マシンはどれもカッコいい。マッハⅢにW1、Z1やZ1000 MkⅡ、ローソン(Z1000R)にGPz900R Ninja……。ティアドロップ型のZ1に対して角の立ったZ1Rなど、タンクの造形ひとつとってもそれぞれに個性的で心に残る。そして、Z900RSは美学という点でもその正当な後継者としての資質を持っていると太鼓判を押す。
今後はZファンの期待に応えられるよう、さらに痒いところに手が届くカスタムを手掛けていくとのこと。Zマイスターの次の一手がいまから楽しみだ。
JB-Power
チタン手曲げマフラー4into1 +メガホンサイレンサー
JB-Power
アルミニウムスプロケット
RK
ゴールドチェーン 525-114L
JB-Power
可変オフセット式フォークブリッジセット(35 - 40mm) + メーターステー
AP Racing / Goodridge
フロントブレーキマスター CP3125-2 + ステンレスメッシュブレーキホース
JB-Power
アルミ削り出しラジアルマウント6ピストンキャリパー
JB-Power
Ø320mm鋳鉄フローティングブレーキディスク
Brembo
2ピストンリヤキャリパー
JB-Power
Ø250mm鋳鉄ブレーキディスク
JB-Power
マグネシウム鍛造ホイール MAGTAN JB4 F:3.00-18、R:4.50-18
Dunlop
Sportmaxα-14 F:110/80ZR18、R:160/60ZR18
JB-Power
オリジナルパイプハンドル + アルミ削り出しバーエンド
JB-Power
オリジナル加工(表皮張替、ウレタン加工)
JB-Power
アルミ削り出しライディングステップキット(14ポジション)
JB-Power
アルミ削り出しヘッドライト/ウインカーステー
JB-Power
アルミ削り出しフェンダーステーセット(18インチ用)
JB-Power
アルミ削り出しエンジンハンガーセット
JB-Power
アルミ削り出しリヤタイヤクイックチェンジシステム、チェーンアジャスター
JB-Power
中空クロムモリブデンアクスルシャフト(F/R)
JB-Power
アルミ削り出しレーシングスタンドフック
JB-Power
リヤキャリア
JB-Power
車体オリジナルペイント:イエローボール