KAWASAKI DIRT CHRONICLES

volume08 ビロポート+KX250Fが完勝!伝説の'07モトクロス・オブ・ネイションズ
 / クラス混走となるレースフォーマットに則り、250vs450の決戦に臨んだビロポートは、排気量のハンディを物ともせずにスタート・トゥ・フィニッシュを繰り返し、KX250Fをポディアムに導いた。

首脳陣の好采配がドラマの布石となる

 2007年9月23日、アメリカのバッズクリークで開催されたモトクロス・オブ・ネイションズにおいて、世界中を震撼させるサプライズが起こった。KX250Fを駆るライアン・ビロポートが、出走したヒート1とヒート2で圧勝を飾り、世界の頂点に立ったのである。総合優勝はもちろんアメリカが物にしたが、誰もが唖然としたのはビロポートが見せたライディングと戦果だった。

ヒート1、ヒート2と、ビロポートは他を寄せ付けない圧倒的な走りでレースを支配した

ヒート1、ヒート2と、ビロポートは他を寄せ付けない圧倒的な走りでレースを支配した

 ネイションズは国対抗で行われる団体競技で、チームはMX1(450)、MX2(250)、オープン(無制限)からなる3人編成。決勝レースは、MX1/MX2、MX2/オープン、オープン/MX1の組み合わせで2クラスずつ混走となる3ヒート制だ。MX2を担うビロポートは、このヒート1とヒート2で優勝したのだが、これは他の250はもちろんのこと、混走したMX1の450とオープンの450も含めた全車に勝ったということなのだ。ネイションズの長い歴史の中で、小排気量車が大排気量車に完勝した前例はない。ちなみにバッズクリークはアップダウンに富むコースで、パワー勝負において250と450のどちらが有利なのかは言うまでもないことだった。
 この年のアメリカは、リッキー・カーマイケル(MX1/スズキ RM-Z450)、ライアン・ビロポート(MX2/カワサキ KX250F)、ティム・フェリー(オープン/カワサキ KX450F)というチーム態勢で、このビッグイベントに臨んでいた。土曜日に行われたクラスごとの予選レースでは、全員が1位フィニッシュを決め、トップ通過を果たしたアメリカの優位は誰の目にも明らかだった。
 アメリカ陣営のテントの下に首脳陣が集う。ロジャー・デコスタ(スズキ監督/アメリカ総監督)、マイク・フィッシャー(カワサキ監督)、ミッチ・ペイトン(プロサーキット・カワサキ監督)の3人は、翌日の決勝レースで使う秘策を確認した。
「予選終了後、我々はライアンをイン側からスタートさせることに決めた。ロジャーがその作戦を最初に提案した時、ミッチも私も何となく予感していた。もしライアンをアウト側にしたら彼がホールショットを獲る可能性は低いが、イン側からだったら可能性はとても高くなる。その一方でリッキーとティミーなら、アウト側からそこそこ悪くないスタートを切れるだろうし、混戦をすり抜けて上がってくることもできるだろうと…」
 フィッシャー監督の解説は明瞭だったが、並のMX2ライダー、並の250マシンでは通用しない作戦だ。首脳陣の采配に迷いがなかったのは、ビロポートと彼のKX250Fが最高のコンディションにあったからだった。

独走の末にKX250Fが頂点に立つ

 決勝レースには、20台×2クラス、都合40台ずつが出走する。予選総合1位のアメリカは、毎ヒート1番目と21番目のゲート選択権を得たが、どちらのライダーを優先するかはチームの方針による。通常なら450マシンの指定席となる1番目のゲートだが、今回は250に乗るビロポートに与えられた。バッズクリークの1コーナーは従来、S字の下りだったが、ネイションズ開催に備えて新設された1コーナーはタイトな180度ターンで、イン寄りが圧倒的に有利なレイアウトだった。
 MX1とMX2の混走となる決勝ヒート1。絶妙なタイミングで飛び出したビロポートは、1コーナーのアウト側にはらむ他車を尻目に、イン側を上手くかすめてホールショットを奪った。トップに躍り出た後がまた凄まじい。後続に対して3周目には10秒、5周目には21秒もの大差をつけ、ビロポートは早々とレースの主導権を握ってしまったのだ。途中、周回遅れにつまずき転倒も喫したが、圧倒的なアドバンテージは少しも揺らぐことなく、独走のうちにチェッカーを受けたビロポートだった。2位にはチャド・リード、3位にはカーマイケルが、スタート直後の転倒から追い上げた末に入賞した。

アメリカチームが頂点に立った表彰台。その前には、総合優勝の立役者であるビロポートのKX250Fが飾られていた。

アメリカチームが頂点に立った表彰台。
その前には、総合優勝の立役者であるビロポートのKX250Fが飾られていた。

 続くヒート2は、MX2とオープンクラスの混走。ここでもイン側のゲートからホールショットを獲ったビロポートが、終始レースを支配した。30分を経過する頃には、2位のケン・ディダイカーに対するリードが1分以上となり、バッズクリークのほぼ半周に相当するマージンを築いた。ビロポートは見事に2ヒート連続で圧勝を飾り、この時点で決勝に出走した60台(250×20台・450×40台)の中で、唯一無敗の存在となった。1周目の転倒から失地を挽回してきたフェリーの4位も誇れるリザルトではあったが、ビロポートの快挙がすべてを上回っていた。
 最後にMX1とオープンが混走したヒート3では、カーマイケルとフェリーが1-2フィニッシュを決め、アメリカの3連覇となる総合優勝が確定した。20年ぶりに自国で開催されたネイションズとあって、アメリカには勝利が義務づけられていたが、最も貢献したのはほかでもないビロポートだった。
 公式記録には恐ろしいタイムが刻まれている。ヒート1のベストラップ=ビロポート=2分08秒691、2位=カーマイケル=2分11秒910…。ヒート2のベストラップ=ビロポート=2分09秒606、2位=カイローリ=2分11秒196…。

前代未聞の偉業を達成したにもかかわらず、淡々とインタビューに答えるビロポート

前代未聞の偉業を達成したにもかかわらず、
淡々とインタビューに答えるビロポート

「去年イギリスで行われたネイションズに初出場した時は、少しプレッシャーを感じたけれど、今年はもっとリラックスできた。簡単だったとは言わないけれど、バッズクリークは相性のいいコースだから。1コーナーはきつい左コーナーで、見るからにイン側が有利だった。リッキーとティミーが譲ってくれたイン側のゲートを使って、ホールショットを取った後は自分のペースで走れた。今年は少なくとも1レース勝ちたいと思っていたけれど、2レースとも勝ててよかった」
 ビロポートが言う自分のペースとは、250が450を半周も引き離してしまうほど凄まじいものだったにもかかわらず、レース後の口調は穏やかだった。モトクロス・オブ・ネイションズでの勝利はオリンピックでの金メダルに相当する栄誉だが、ビロポートの笑顔はAMAナショナルで勝った時とさほど変わらない。とてつもない偉業とそれに似合わない淡々とした発言が、鮮やかな対比をなしていた。

2007 Motocross of Nations Results

Heat 1(MX1/MX2)

POS NR RIDER NAT BIKE BEST TIME
1 2 R・ビロポート USA Kaw KX250F 2:08.691
2 31 C・リード AUS Yam YZ450F 2:13.049
3 1 R・カーマイケル USA Suz RM-Z450 2:11.910
4 13 S・プーセル FRA Kaw KX450F 2:13.847
5 22 J・バラガン ESP KTM 450SX-F 2:.12.557
6 10 D・フィリッパーツ ITA KTM 450SX-F 2:13.101
7 25 T・レオク EST Kaw KX450F 2:14.578
8 4 S・ラモン BEL Suz RM-Z450 2:14.531
9 17 T・サール GBR KTM 250SX-F 2:14.142
10 14 N・オーバン FRA Yam YZ250F 2:15.303

Heat 2(MX2/Open)

POS NR RIDER NAT BIKE BEST TIME
1 2 R・ビロポート USA Kaw KX250F 2:09.606
2 6 K・ディダイカー BEL Hon CRF450R 2:12.682
3 17 T・サール GBR KTM 250SX-F 2:17.036
4 3 T・フェリー USA Kaw KX450F 2:16.185
5 15 P・ルネ FRA Hon CRF450R 2:17.396
6 14 N・オーバン FRA Yam YZ250F 2:17.216
7 23 C・カンパーノ ESP Yam YZ250F 2:16.463
8 36 熱田孝高 JPN Hon CRF450R 2:20.191
9 114 M・バー IRL Yam YZ250F 2:17.993
10 5 J・ファンホルベーク BEL KTM 250SX-F 2:19.915

Heat 3(Open/MX1)

POS NR RIDER NAT BIKE BEST TIME
1 1 R・カーマイケル USA Suz RM-Z450 2:11.357
2 3 T・フェリー USA Kaw KX450F 2:13.241
3 19 G・ラングストン ZAF Yam YZ450F 2:14.443
4 4 S・ラモン BEL Suz RM-Z450 2:13.861
5 25 T・レオク EST Kaw KX450F 2:15.142
6 10 D・フィリッパーツ ITA KTM 450SX-F 2:17.426
7 36 熱田孝高 JPN Hon CRF450R 2:17.908
8 16 B・マッケンジー GBR Kaw KX450F 2:16.509
9 13 S・プーセル FRA Kaw KX450F 2:17.437
10 49 J・ビル CHE Hon CRF450R 2:18.377

(取材/文: 浦島信太郎)

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