ライダーへの厳しい指導で知られる
プロサーキットのボス、ミッチ・ペイトン
ピラミッドの頂点には、AMAスーパークロス/モトクロスの四冠王、ジェフ・ワードがいる。そして底辺には、アマチュアライダー育成組織、チームグリーンの成功がある。1980年代を席巻したカワサキが次に着手した戦略は、この両者の間を補完する二軍的なチームの整備だった。
決して十分とは言えない準備期間の後、'93年の開幕からプロサーキット・カワサキの参戦が始まる。2スト125に特化した二軍が担った役割は、ルーキーたちのポテンシャルに磨きをかけ、ファクトリーチームへ送り込むこと。根底にあるコンセプトは、当時から現在に至るまで変わっていない。だが、プロサーキットのミッチ・ペイトン監督は、二軍の枠に収まることを潔しとしなかった。
「ファクトリーサポートチーム? セミファクトリーチーム? 誰がどう呼ぶのか知らないが、我々はこのパドックの中で最強のナンバーワンチームだと思っている。2スト125と4スト250のタイトルを何個も獲ってきたが、もし450クラスを任されたらチャンピオンになる自信があるし、現存するファクトリーチームなど全く怖くない」
鬼監督の強気は口先だけではない。ファクトリーライダー候補どころか、チャンピオンを量産してきた実績を振り返ってみれば、誰も異論を挟むことはできないだろう。ジミー・ガディス、リッキー・カーマイケル、ミカエル・ピション、シェイ・ベントリー、ネイサン・ラムゼイ、マイク・ブラウン、アイバン・テデスコ、グラント・ラングストン、ライアン・ビロポート、ベン・タウンリー、クリストフ・プーセル…。彼らが獲得してきた黒地に白数字のナンバーワンプレートが、チャンピオンマシンと共に展示されている。AMAスーパークロス/モトクロスの小排気量クラス(2スト125/4スト250)における、プロサーキット・カワサキの高い勝率は、初年度から今季2009年まで続いてきた伝統だ。
プロサーキット社内の一角に並ぶ、
ゼッケン1を付けたKX125/KX250Fたち
チームの母体となっているプロサーキットは、ロサンゼルス郊外のコロナにあるエンジン&サスペンションチューナーだ。2ストマシンが全盛だった頃は、特にチャンバーが高い評価を得ていて、アフターマーケットの大きなシェアを占めていた。'91年にホンダ系チームとして本格的なレース活動を開始した後、'93年からはカワサキの専属チームになったが、プロサーキットのショップでは今でも全メーカーのチューニングを手がけている。
ペイトン社長は、チャンバー作りの全工程に携わってきた職人だ。輪切りのコーンパイプでテストを重ね、モナカのスタンプパイプが完成するまで、自身が蓄積したノウハウで突き進む。エキゾーストの仕様が決まった後は、シリンダーのポート削りに没頭する。こうして2ストチューナーとしての名声を築いたプロサーキットだが、やがてモトクロッサーのエンジンには4ストローク化の波が押し寄せた。
「4ストは未知の分野だったので、学ばなければならないことが多々あった。だが、チューニングのノウハウを習得するのに、例えば2年などという長期間を費やすのは嫌だった。1ヶ月で納得がいくレベルのマシンを仕上げ、1年目から思い切り勝ちに行きたかった。そこで我々が選んだ方策は、4ストの専門家を招くこと。トヨタ・レーシング・ディべロップメントを率いた実績もあるドリノ・ミラーを呼び、4ストチューニングをリードしてもらったんだ」
プロサーキット・カワサキは'04年、テデスコの活躍によってAMAスーパークロス125ウエストチャンピオンを獲得。KX250Fはデビュー初年度にして、最強の4ストマシンという評価を得た。その後も'05年と'07年には、スーパークロスの東西とアウトドアモトクロスを含む3タイトルを完全制覇。メーカーとチームのスムーズな連携は、ルーキーたちの才能だけでなく、KX250Fのポテンシャルをも育んでいった。
「カワサキは持っている技術情報などをすべて提供してくれるし、我々も現場で得たデータをフィードバックしている。レースにおける圧倒的な成績は、こうした密接な関係の上に成り立っているのだ。カワサキは大企業だが、まるで小さな会社のように事が運ぶのでとても付き合いやすい。日本にいる上層部も含め、誰にでも話が通じやすい点は、他のメーカーとは比べ物にならない。彼らのサポートに対しては、いくら感謝しても足りないくらいだ」
チームグリーン、プロサーキットを経て
ファクトリー入りしたライアン・ビロポート
アメリカのモトクロス界を見渡してみると、長年にわたって同じメーカーやスポンサーとの関係を維持しているチームが、あまり多くないことに気付く。プロサーキット・カワサキは、そんな中でごく少数のケースと言えるだろう。当初コンセプトに掲げた、野球のファームのような下部組織と言うには、あまりにも強くなりすぎたが、ライダーを育てるという任務は確かに全うしてきた。チームグリーンからプロサーキット、そして今季からファクトリーへと昇格したビロポートは、カワサキが描いたプロジェクトを忠実に具現化した成功例だ。
「ライダーには勝利が求められる。我々には勝ち続けてきた歴史があるし、その伝統を守るのがライダーの責任だ。ここには世界一強いマシンがあるし、勝つために必要な環境がすべて揃っている。だから我々はライダーを甘やかさない。相当なプレッシャーになっているだろう。よく言われることだが、私は鬼監督なのだ」

プロサーキット・カワサキ所属のライダー
(取材/文: 浦島信太郎)

